動物咬傷はどんな抗生剤を使用すれば良いの?

感染
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動物咬傷の感染症の頻度

動物咬傷はアメリカの報告よると、アメリカ人の2人に1人が生涯のうちに動物に噛まれ、そのうち約9割がイヌ・ネコによるものとなっている。

1年間に470万件のイヌ咬傷事故があり、うち約80万人が医療機関を受診し、さらにそのうち6000人が入院する。

日本でのデータはあまりないが、環境省によるとイヌ咬傷事故件数は年間6300件が行政機関に届け出があるが氷山の一角だと考える。

日本においても動物咬傷の頻度はイヌが8割以上、ネコが1割程度、ヒトやハムスター、カワウソなどその他が1割以下となっている。

感染症を起こす確率はイヌ咬傷では5-20%で、ネコ咬傷はその約10倍の80%以上である。

これはネコの口の中が汚れているからではなく、ネコの牙が細く鋭いため入口は小さいものの深い傷になるためである。そのため化膿性関節炎や骨髄炎が多いのも特徴である。

ヒト咬傷は10-15%が感染症を合併する。自傷、喧嘩、医療者が患者ケア中に咬まれる場合があるが実際に咬まれた損傷より手拳で顔面を殴ったときに生じる手拳損傷の汚染の方が重度の感染症を合併する。

感染しても多くの場合は蜂窩織炎だが、壊死性筋膜炎や骨髄炎、重症化し敗血症性ショックになることもある。

動物咬傷の原因菌

イヌやネコは原因菌は頻度が一番多いのはパスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)が一番多いが、イヌの場合はパスツレラ・カニス(Pasteurella canis)も多い。

猫ひっかき病の原因菌で有名なバルトネラ・ヘンセレ(Bartonella henselae)も大事である。

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、口腔内嫌気性菌(Fusobacterium属等)、致死率の高いカプノサイトファーガ・カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus)等も鑑別に上げておく必要がある。

ヒトの場合は常在菌の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑色レンサ球菌が多いが、Eikenella corrodens、インフルエンザ菌、腸内細菌科、口腔内嫌気性菌(Fusobacterium属等)等の報告もある。

狂犬病は世界で年間5万人が狂犬病により死亡しているが日本では1957年以降、海外で感染して帰国後に発症した3例を除き、ヒト・イヌともに感染例はない。

ネコPasteurella multocida, Bartonella henselae, 
Staphylococcus aureus,
口腔内嫌気性菌,
Capnocytophaga canimorsus
イヌPasteurella multocida, Pasteurella canis,
Staphylococcus aureus,
口腔内嫌気性菌,
Capnocytophaga canimorsus
ヒトStaphylococcus aureus, 緑色レンサ球菌, 口腔内嫌気性菌

動物咬傷の治療

一番大事なのは創部をしっかり洗浄し、必要に応じてデブリードマンをすることである。

生理食塩水ではなく水道水で洗う方が望ましい。

神経、腱、骨および血管の損傷がないか確認し必要があれば専門家にコンサルトする。

出血のコントロールがついていない場合を除きすぐには一次閉創はせずに感染がないことを24時間後に確認してから縫合する。

もちろん感染の可能性を考えで中縫いは原則行わない。

抗菌薬はパスツレラ属はペニシリン系に感受性が良いことと嫌気性菌は検出されていないだけで混合感染のことも多いため予防投与はオーグメンチン、治療薬としてはユナシンを使用する。

予防内服は原則行う。また日本のオーグメンチンは海外のと比べてアモキシシリンの量が少ないため併用することが望ましい。俗にいう『オグサワ』である。

第一選択薬

予防投与オーグメンチン(アモキシシリン/クラブラン酸)250mg 3錠 1日3回
+サワシリン(アモキシシリン)250mg 3錠 1日3回
治療薬ユナシン(アンピシリン/スルバクタム)3g 6時間ごと

代替薬

ペニシリンアレルギーの場合は以下の以下の抗菌薬を使用する。

予防投与(ドキシサイクリン100mg 2錠 1日2回 or バクタ(ST合剤) 4錠 1日2回)

(フラジール(メトロニタゾール)250mg 4錠 1日2回 or ダラシン(クリンダマイシン)150mg 4錠 1日2回)
治療薬(セフォタックス2g 24時間ごと or シプロキサン 400mg 12時間ごと)
+アネメトロ(メトロニタゾール)500mg 12時間ごと

破傷風の予防も忘れてはならない。

動物咬傷の場合は受傷6時間以内で感染徴候がなければ、破傷風起こす可能性が低い傷とみなして抗破傷風ヒト免疫グロブリン(HTIG)は投与しない。

破傷風トキソイド接種歴 破傷風トキソイド抗破傷風ヒト免疫グロブリン
不明 or 3回未満〇(最終接種より 10年以上経過) ×
3回以上〇(最終接種より 10年以上経過) ×

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